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新NISAのつみたて投資枠では複数銘柄を購入すべき?選ぶときのポイントや注意点を解説

新NISAのつみたて投資枠では複数銘柄を購入すべき?選ぶときのポイントや注意点を解説

2024年から開始した新NISAのつみたて投資枠では、289種類の投資信託が購入できます(2024年5月15日時点)(※)。日本株や米国株式、全世界株式、先進国株式、債券を含んだバランスファンドなどさまざまな投資信託があるため、絞り切れずに2つ以上の銘柄へ投資しようと検討しているのではないでしょうか。

しかし、複数銘柄を買ってもよいのか、どのような銘柄を組み合わせるべきかなど、疑問が生じていることでしょう。

結論からいうと、投資初心者の方は新NISAのつみたて投資枠で複数銘柄の購入をおすすめしません。その理由は、1つの銘柄だけであっても十分に分散投資できているからです。

今回は、新NISAのつみたて投資枠で複数銘柄を購入してもよいのかを解説します。銘柄選びのポイントや注意点、ポートフォリオ例も紹介しているので、新NISAでの投資に失敗したくない方は、ぜひ参考にしてください。

(※)参考:つみたて投資対象商品:金融庁(fsa.go.jp)


新NISA開始!そもそもNISAってなんだろう?

新NISAとは、今までのNISAの内容を一新して2024年に開始した税制優遇制度のことです。

株式や投資信託などの運用益には通常20.315%の税金がかかりますが、NISAは運用益が非課税となるのが最大のメリットです。

新NISAでは今までのNISAから以下の点が変更されました。

  • 非課税保有期間が無期限
  • NISA口座の開設期間が恒久化
  • つみたてNISAが「つみたて投資枠」、一般NISAが「成長投資枠」に変更され併用可能に
  • 年間投資枠の増額(つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠が240万円の合計360万円)
  • 生涯の非課税保有限度額は1,800万円(成長投資枠は1,200万円まで。売却した商品の取得金額の分だけ非課税枠が翌年に復活)

旧NISAには非課税になる期間が決まっていたほか、年間投資額の上限が120万円(一般NISA)と優遇を受けられる範囲が限られていましたが、新NISAでは非課税期間が無期限になったり、非課税投資額が増額されたことによって、より長期投資をしやすい環境になりました。

この記事では、新NISAのなかでも長期投資向けの投資信託が購入可能なつみたて投資枠での「複数銘柄の購入」について解説します。

参考:NISAを知る : 金融庁 (fsa.go.jp)

 

新NISAでは複数の銘柄を買うべき?

複数市場に分散投資できる商品なら1つでもOK!
例:全世界株式の場合

新NISAのつみたて投資枠の対象商品は、2024年5月15日時点で合計289本(※)にものぼります。

日本やアメリカ、全世界を対象とした銘柄など種類が多く、1つに絞るのが難しいため、2つや3つ買ってみようという人もいることでしょう。

しかし、投資に慣れていない方が新NISAのつみたて投資枠で複数銘柄を購入するのはおすすめできません。

なぜなら、つみたて投資枠で対象となる投資信託は、複数の国や市場、企業に分散投資できる商品を扱っているからです。1つの投資信託を買うだけでも価格の下落リスクを抑えた運用が可能となっています。

たとえば、全世界株式に投資する投資信託であれば、アメリカや日本といった先進国や中国やインドといった新興国まで多くの国・地域へ分散投資できます。

米国株式だけに特化した商品であっても、株式投資のようにどこか1社の株式を購入しているわけではありません。投資信託では1つの銘柄にさまざまな業種の企業の株式などが含まれているので、価格下落のリスクを抑えた運用が可能です。

このように投資信託で分散投資できるので、初心者の方は新NISAのつみたて投資枠では銘柄を1つに絞るのがおすすめといえます。

(※)参考: つみたて投資枠対象商品 : 金融庁 (fsa.go.jp)

 

複数銘柄を購入して失敗…失敗事例と対策

投資の知識や経験が豊富で投資と貯蓄のバランスを取りながら資産の管理ができる人以外は、複数銘柄への投資はおすすめできません。

その理由として、期待しているような運用ができない可能性があるからです。ここでは、複数銘柄に投資したときの失敗例を3つ紹介します。

  • 同じ値動きをする銘柄を複数購入してしまう
  • リスクの高い銘柄を選びすぎてしまう
  • 複数購入しすぎて、情報の多さに戸惑ってしまう

同じ値動きをする銘柄を複数購入してしまう

よくある失敗としては、同じ値動きをする投資信託を複数買ってしまうことがあげられます。

たとえば、「SBI・全世界株式インデックス・ファンド」と「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」の2つを購入したとします。

どちらも全世界を投資対象としており、「FTSE Global All Cap Index」という指数との連動を目指しているインデックスファンドです。

同じ指数を使っている、ということは2つの銘柄は同じような値動き(価格の上がり・下がり)となるため、リスク分散にはなりません。

リスクを分散するには、国内株式と先進国株式のように国・地域の違いや、同じ地域でも国内株式と国内債券のように異なる値動きをする商品を組み合わせることを意識しましょう。

リスクの高い銘柄を選びすぎてしまう

大きく利益を出したい、と欲張ってしまい、価格の下落リスクを考えずに銘柄を選んでしまうのは危険です。

たとえば、つみたて投資枠で購入できる新興国の株式で構成されている投資信託は、政治的・経済的に不安定な新興国を対象とした銘柄は価格変動の度合いを示す「ボラティリティ」が大きいといわれており、値動きが激しいのが特徴です。

つみたて投資枠の商品は毎月投資信託を購入するため、長期間持ち続けることでリスクはある程度抑えられますが、新興国株式のようなハイリスク・ハイリターンの銘柄ばかり購入するのはおすすめしません。

なお、新興国株式やアクティブファンドなどリスク・リターンが高い投資信託は「信託報酬」と呼ばれる管理・運用費用が高い傾向にあります。信託報酬は信託財産から毎日差し引かれるもので購入者が別途支払うものではありませんが、投資期間が長ければ長いほどコストの負担が大きくなるので商品を選ぶ際には留意しましょう。

複数購入しすぎて、情報の多さに戸惑ってしまう

複数銘柄を購入することで、情報量が多くなり、自分が何に投資しているのかわかりづらくなる心配があります。

たとえば、米国株式の銘柄と新興国の銘柄に投資している場合、両方の値動きを追いかける必要があります。そのため、自分が一体どれくらい資産を持っているのか把握しづらくなるでしょう。

また、資産配分が時間の経過とともに変化していくため、リスク分散するためにはその都度バランスを整える必要性も出てきます。

一方で、米国株式の投資信託といったように1つの商品に投資すれば、何に投資しているのかは明らかで、知っておくべき情報も少なくなります。

複数銘柄を購入することで情報の多さに戸惑い、投資をやめてしまう可能性も高まるので、投資初心者は銘柄を1つだけにしましょう。

 

新NISAで銘柄を複数選ぶときのポイント・注意点

ここまで、複数銘柄へ投資する難しさを解説してきました。しかし、理想の投資バランスを求めるために、2つ以上の投資信託を購入してみたい人もいることでしょう。

そんな方に向けて、新NISAで銘柄を複数購入する際に気をつけるべきポイントを5つ解説します。

  • リスク許容度を決めておこう
  • 手数料の低いインデックスファンドを選ぼう
  • どの指数に連動する商品なのかを確認しよう
  • 銘柄選びは慎重になろう
  • 安易に売らず、短期的な成績に左右されないようにしよう

リスク許容度を決めておこう

新NISAで銘柄を選ぶにあたって、自身のリスク許容度を決めておくことが大事です。

リスク許容度とは、投資でどの程度の損失まで受け入れられるかの度合いのことです。リスク許容度は、以下のように個人の持っている要素によって異なります。

  • 年齢
  • 収入
  • 保有資産
  • 家族構成
  • 性格
  • 投資経験  など

たとえば、20代や30代であれば長期投資できるため、リスク許容度は高いといえるでしょう。

一方で、50代や60代では投資期間が短くなることで損失を取り戻せない可能性が高く、リスク許容度は低くなります。

リスク許容度が高ければ比較的ハイリスクな株式のみの投資信託に、リスク許容度が低ければ株式よりもローリスクな債券を含んだ投資信託へと投資するといった方針がわかります。

このように自身のリスク許容度を設定してから、どの銘柄を選択するか決めましょう。

幅広く分散投資できるインデックスファンドから始めよう

つみたて投資枠で購入できる投信信託*には「インデックスファンド」と「アクティブファンド」があります。*このほかに上場株式投信(ETF)があります。
インデックスファンドとは、市場の動きを表す指数に連動した成果を目指す投資信託のことです。有名な指数・指標としては、日本の日経平均株価やTOPIX、アメリカのS&P500などがあります。
一方、アクティブファンドとは指標を上回る成果を目指して運用する投資信託でインデックスファンドよりもリターンを期待できますが、その分リスクも高くなります。

インデックスファンドは市場の動きと連動するため、より多くの投資銘柄を組み入れており、ファンド1つだけで分散投資ができます。また、経済指標と連動するため値動きがわかりやすいので、はじめての投資は「インデックスファンド」から始めてみましょう。

どの指数に連動する商品なのかを確認しよう

つみたて投資枠で投資できるインデックファンドには、以下のようにさまざまな指数に連動する銘柄があります。

区分

指数

国内

  • TOPIX
  • 日経平均株価
  • JPX日経インデックス400

米国

  • S&P500
  • CRSP U.S.Total Market Index

全世界

  • MSCI ACWI Index
  • FTSE Global All Cap Index

先進国

  • MSCI World Index
  • MSCIコクサイ・インデックス
  • FTSE Developed All Cap Index

新興国

  • MSCI Emerging Markets Index
  • FTSE Emerging Index S
  • FTSE RAFI Emerging Index

購入する銘柄がどんな指数に連動しており、どこの国・地域を対象としているかを知ることが重要です。

複数銘柄を購入したときの失敗例でも解説したように「先進国+先進国」など同じ地域に投資する投資信託を選んでも、リスク分散にはつながりません。

「先進国+国内」や「国内+新興国」といったように分散効果が正しく働くような組み合わせで投資しましょう。

参考:つみたて投資枠対象商品 : 金融庁 (fsa.go.jp)


手数料(信託報酬)の違いに着目しよう

投資信託を保有している間にかかる手数料(信託報酬)は商品により異なります。信託報酬は信託財産から毎日日割りで差し引かれるので負担感はありませんが、投資期間が長くなればなるほど運用に影響します。

たとえば、信託報酬が0.5%のファンドと信託報酬が0.1%のファンドで同じ金額を保有していたときの手数料で比較してみましょう。

それぞれ100万円を1年間保有していたときの手数料を見てみると、信託報酬0.5%では5,500円*、信託報酬0.1%では1,100円*でその差額は年間4,400円です。

この手数料の差は一見小さく見えますが、複利運用効果により運用期間が長くなればなるほど運用成果に差が出ることになります。とくにインデックスファンドの場合、連動する指標が同じであれば運用成果も類似する傾向にあるので、商品を選ぶときには信託報酬の違いも確認しましょう。
*信託報酬には消費税(10%)がかかります

銘柄選びは慎重になろう

銘柄を選ぶ際は直近2〜3年のリターンが優秀というだけでなく、10年といった長期で利益を生み出している投資信託を選びましょう。

なぜなら、つみたて投資枠では長期間投資するため、短期的なリターンだけでは判断材料にならないからです。

そのほかに、純資産総額の大きさや増減も購入する際に重要なポイントとなります。純資産総額とは、どれくらい投資されているかというファンドの規模を表している指標のことです。

たとえば、5人の投資家が10万円ずつ投資したとすると、合計額の50万円が純資産額となります。その後、運用して60万円となった場合は、増加後の金額が純資産総額です。

純資産総額が大きく伸び続けているということは、運用成績がよかったり、投資家からの人気が高かったりすることを示しています。

一方で、純資産総額が少ないとファンドが継続できず、投資信託が終了する「繰上償還」の可能性が高まります。想定より早い段階で投資できなくなってしまい、元本割れを起こすこともあるでしょう。

投資できなくなる危険性を抑えるためにも、つみたて投資枠では純資産総額が大きく、順調に伸びている商品を選んでおくと安心です。

安易に売らず、短期的な成績に左右されないようにしよう

投資信託を購入してから価格が下落しても、安易に売らないようにしましょう。すぐに売却してしまうと複利効果を活かせなくなります。

複利効果とは元本だけでなく、運用益を含めた金額に利益が追加されて資産が増えることです。長期で運用することによって複利効果が高まり、資産が増加するスピードも早まっていきます。

また、価格が値下がりしているということは長期投資において悪いことではありません。一口あたりの価格が下がることによって、その分割安な価格で多く購入できます。

一方、値上がりしている銘柄は割高な価格で買うことになるため、人気だからという理由で購入するのは危険です。

目の前の値動きに動揺せずに、長期的な視点を持って投資を継続しましょう。

 

みんなどう組み合わせている?
複数銘柄を組み合わせる場合のポートフォリオ例

新NISAで複数銘柄を組み合わせる投資には、さまざまなパターンがあります。

ここでは、投資目的ごとのポートフォリオ例を3つ紹介します。

  • 老後資金のために長期でしっかり積み立てたい
  • マイホーム購入や教育資金のための資産を積み立てたい
  • もうすぐ現役引退。ゆとりある老後資金をつくりたい

どのような投資信託を選べばよいか迷ったときは参考にしてみてください。

老後資金のために長期でしっかり積み立てたい

20〜30代でじっくりと老後資金を準備したい方は、株式のみで構成されているインデックスファンドがおすすめです。

株式のみで構成されている投資信託は、債券が含まれている銘柄よりもリスクが高くなりますが、その代わりにリターンも大きくなるのが特徴です。

仮に損失が出たとしても、長期間保有することによって損失を取り戻しやすくなります。

たとえば、米国株式の投資信託をメインに買いつつ、全体の10%や20%など部分的に新興国を対象とする銘柄を組み合わせてみましょう。

米国株式で安定的に増やしつつ、新興国でさらにリターンを高める効果が期待できます。

ここで紹介した割合は一例のため、どの国に期待しているかによって投資バランスを調整してください。

マイホーム購入や教育資金のための資産を積み立てたい

20〜30代でマイホーム購入や子供の教育資金を目的とする方は、株式で構成されている銘柄を購入し、ある程度リスクを取ったポートフォリオを組みましょう。

株式の投資信託だけではリスクが高いと思われるかもしれませんが、預貯金と組み合わせることで、リスクとリターンのバランスを適切に保てます。

より安全に運用したい方は株式のみの投資信託だけでなく、債券を含むバランス型ファンドへと投資するのがおすすめです。バランス型であれば期待できるリターンは下がりますが、その分元本割れするリスクを軽減できます。

なお、バランス型といっても「株式・債券」や「株式・債券・REIT(不動産投資信託)」など、投資対象や投資割合が異なります。

それぞれのリスク許容度に合わせて、適切な銘柄を選びましょう。

もうすぐ現役引退。ゆとりある老後資金をつくりたい

40〜50代以上で老後資金を増やしていきたい方は、バランス型ファンドへの投資がおすすめです。

老後に向けて投資できる期間が短いので、株式のみの投資では元本割れのリスクが高くなります。

一方、バランス型ファンドであれば債券を含んでいるため、ローリスクな運用が可能です。

バランス型といっても債券の割合が全体の3割ほどであったり、約7割含まれているものなどさまざまです。複数銘柄を選ぶことで、自身のリスク許容度に適した配分に調整してみてください。

 

まとめ

1つの投資信託で分散投資できるため、投資初心者の方は、新NISAのつみたて投資枠で複数銘柄の購入をおすすめしません。

例外として、1つだけでは好みの配分で分散投資できない場合に複数銘柄の購入を検討してもよいでしょう。

その際に「先進国+先進国」といったように同じ値動きをする銘柄を買っても、分散投資とはならないため意味がありません。「国内+米国」や「米国+新興国」といったように、異なる値動きをする銘柄を組み合わせてみてください。

また、株式だけの銘柄か、債券も含んだ銘柄の方が良いのかはご自身のリスク許容度や投資目的によって変わりますので、リスク許容度と目的をはっきりさせることもポイントです。

リスク分散できる組み合わせを十分に考慮して、新NISAのつみたて投資枠を最大限利用してみてください。

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