経済

ワンセグ携帯の顛末。今後のNHK受信料制度はどうなるのか

ワンセグ携帯の顛末。今後のNHK受信料制度はどうなるのか

デジタル技術の進歩により、昨今はワンセグ付き携帯電話があれば、テレビ環境がなくてもテレビ放送を視聴できるようになりました。では、ワンセグ付き携帯電話を持っている人は、NHK受信料を払わなければならないのでしょうか。
2016年8月26日、さいたま地裁(大野和明裁判長)は「テレビを見られる機器がワンセグ機能付き携帯電話のみの場合、NHK受信料を払う契約を結ぶ義務はない」と判決をくだしました。NHKはこれを不服とし、控訴する意思を示しています。
未だ解決していないこの問題。今回の裁判ではどこが争点となったのでしょうか。世界の公共放送の受信料制度を踏まえて、今後のNHK受信料の支払いについて考えてみましょう。

■「設置」か「携帯」か

NHK放送の受信契約と受信料については、「放送法」という法律で次のように定められています。

放送法第64条(受信契約及び受信料)
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であって、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第126条第1項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。

ここでいう「協会」とは、日本放送協会(NHK)を指します。つまり、NHK放送を受信できる設備を設置した人は、放送受信契約を結んで受信料を支払う義務が発生します。さいたま地裁の判決では、この「設置」という言葉の解釈がポイントとなりました。NHK側は「『設置』は『携帯』を含む」と主張しましたが、地裁はそれを認めませんでした。地裁は、放送法の別の条文で「設置」と「携帯」という言葉が区別して使われていたことを根拠として、64条で「携帯」を「設置」に含めるには無理があるとし、受信料の支払い義務はないと判断しました。

■訴訟の背景にある「時代」の問題




この裁判の原告は埼玉県朝霧市議の男性。判決文によると、この男性は単身赴任中で自宅にテレビはなく、ワンセグ機能付き携帯電話はメールやウェブ閲覧を目的として所有していたそうです。
今回この男性はワンセグ視聴をしていませんでしたが、もしも彼が携帯電話でNHK放送を視聴していたら「受信料支払いの義務がある」という判決がされたのでしょうか。それでもテレビを設置しておらず、携帯電話を携帯しているだけなら、受信料は支払わなくてもいいのでしょうか。そのほか、パソコンやタブレットでネット視聴している人はどうなるのでしょう。
このように現代は視聴環境が多様になり、受信料の支払い義務の判断が難しくなってきています。
世界ではどのように受信料が徴収されているのか見ていきましょう。

■ヨーロッパの公共放送事情

【イギリス:公共放送局・英国放送協会(British Broadcasting Corporation, 通称“BBC”)】
イギリスでは、放送受信機を所有するには受信許可証が必要で、そのライセンス料が公共放送BBCの運営資金となっています。ライセンス料の不払い者は刑事罰の対象となり、罰金が科せられます。支払いを拒否すれば収監される場合もあります。オンライン配信サービス「BBC iPlayer」については、従来はライセンス料を支払わなくても視聴できました。しかし、2016年9月から、法改正によりiPlayerの視聴やダウンロードにもライセンス料の支払いが義務付けられました。

【イタリア:公共放送局・イタリア放送協会(Radiotelevisione Italiana,通称”RAI”)】
イタリアでは放送受信機を持つ人は全員、受信料を支払うシステムをとっています。不払い者には罰金が科せられますが、受信料不払い者が多いことが問題視されてきました。そこで政府は2016年の予算法審議で、公共放送RAIの受信料を各家庭の電気代と一括徴収する方式へ移行する方針を示しました。

【ドイツ:ドイツ公共放送連盟(Arbeitsgemeinschaft der öffentlich-rechtlichen Rundfunkanstalten der Bundesrepublik Deutschland, 通称”ARD”)】
ドイツでも同様に放送受信機を持つ人から受信料が徴収されていましたが、インターネットの普及による放送環境の多様化にあわせて、いち早く受信料制度の見直しを行いました。放送受信機の有無にかかわらず、「放送負担金」という形で全ての世帯と事業所から徴収するシステムが採用されています。


■NHK受信料制度の未来とは



さいたま地裁は「ワンセグ携帯を持つ人に受信料支払い義務はない」という旨の判決をくだしましたが、NHKは今後もワンセグ視聴者からも受信料の徴収を続ける方針を示しています。また、2016年9月の時点では、総務相も「将来、ワンセグ付き携帯などの受信機も契約締結義務の対象になると考えている」と述べています。

今後は日本も諸外国のように、「オンライン配信にも受信料を科す」「光熱費と一括徴収する」「テレビ(放送受信機)の有無にかかわらず全世帯徴収にする」といった独自の徴収システムをつくる可能性もあります。デジタル化・モバイル化が進む現代、引き続き、NHK受信料制度の動きに注目していきましょう。

※この記事は2016年10月時点の法律・情報にもとづき作成しているため、将来、法律・情報・税制等が変更される可能性があります。

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