家計
貯金5,000万円で老後資金は足りる?早期リタイアは可能?

近年、「老後破産」や「老後貧乏」といった言葉が話題になり、独身の若い世代から子育て世代まで、多くの人が老後資金の不安を抱えています。2,000万円の貯蓄が目標とされる一方で、5,000万円の貯蓄があっても不安だという声もあり、将来の資金計画には多くの見方があります。
ただでさえ高額な老後資金を貯めるのが大変なのに、公的年金制度が崩壊するのではないか、不況はいつまで続くのか、物価はどれくらい上がるのか、お金の不安は尽きません。
今回の記事では、貯金5,000万円が実際にどの程度老後の生活を支えられるか、また話題の早期リタイア(FIRE)に必要な資金として十分かを解説しています。
老後資金について、何をどれだけ準備するべきか迷ったら、一度ファイナンシャル・プランナーに相談してみませんか?
あなたの不安に寄り添い、資産設計のアドバイスをいたします。
老後資金は5,000万円で足りる?
一般的に、老後に必要な生活資金は夫婦合わせて3,000万円とも5,000万円ともいわれていますが、実際のところどれくらい必要なのでしょうか。
総務省統計局の「家計調査」や日本年金機構の発表をもとに試算してみましょう。
65歳以上の標準的な収入・支出
老後の収入と支出の1か月平均の金額が、総務省統計局から公開されています。
総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要」によると、65歳以上で夫婦だけの無職世帯では、手取り収入となる可処分所得が21万4,426円、消費支出は23万6,696円という結果が出ており、2万2,270円の赤字が発生しています。
一方、65歳以上の単身無職世帯の場合は、可処分所得は12万2,559円、消費支出は14万3,139円。2万580円の赤字が発生しています。
項目 | 65歳以上 | 65歳以上 |
---|---|---|
可処分所得 | 21万4,426円 | 12万2,559円 |
消費支出 | 23万6,696円 | 14万3,139円 |
黒字 | ▲2万2,270円 | ▲2万580円 |
平均消費性向 | 110.4% | 116.8% |
高齢者の収入源は年金がメインとなります。
日本年金機構が発表した「令和5年4月分からの年金額等について」によると、夫婦2人分の国民年金(老齢基礎年金)は月額13万2,500円(6万6,250円×2人)、夫婦二人分の厚生年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金満額の場合)月額22万4,482円と大きな差があります。
厚生年金の金額は、平均的な収入で40年間就業した場合に受け取り始める年金額です。
「家計調査報告 2022年」における65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の実収入24万6,237円のうち、公的年金は21万9,762円となっています。
60代以降はだんだんと消費金額が下がっていきますが、国民年金だけに加入している方や厚生年金に加入していない期間がある方にとっては「家計調査報告 2022年」のデータは少し楽観的すぎるかもしれません。
月の生活費から老後資金を逆算しよう
夫婦二人で生活した場合の収入額と不足する金額を計算してみましょう。
▼ 試算条件
リタイア後の期間:65歳にリタイアして90歳まで生きると仮定した25年間
収入:日本年金機構が発表した年金額とおりに受け取れる場合
支出額:「家計調査報告 2022年」より65歳以上の夫婦二人暮らしの月額支出額は約23.7万円(消費支出1か月平均23万6,696円より)
厚生年金加入者の場合
【収入】月額22.4万円×12か月×25年=6,720万円
【支出】月額23.7万円×12か月×25年=7,110万円
【収入と支出の差】6720万円-7,110万円=▲390万円
介護が必要になるなど、大きな支出が発生しなければ400万円程度の貯金があれば足りる計算になります。
国民年金加入者の場合
【収入】13.3万円×12か月×25年=3,990万円
【支出】月額23.7万円×12か月×25年=7,110万円
【収入と支出の差】3,990万円-7,110万円=▲3,120万円
年金が少ない分毎月の赤字額が大きいので、最低でも3,200万円程度は貯金が必要になる計算です。万が一にも備えるとすると、より多くのお金を準備しなければならないことも考えなければなりません。
ただし、上記は老後の生活において、夫婦二人分の収入があり、生活費を約23万円使う場合の概算です。
現役時代の生活を維持するための生活費が23万円以上であれば、老後資金は3,000万円でも5,000万円でも足りないかもしれません。
反面、生活費を23万円以下に抑えられるのであれば、もっと少ない資金で老後を生き抜くことができる可能性もあります。
収入が多いほど「老後破産」しやすい傾向
「高収入であればたくさん蓄えられるから、老後は安泰だろう」と思われる方も多いですが、老後に生活が立ち行かなくなりやすいのは、実はリタイア前の収入が比較的高い方なのです。
収入が少ないなりに黒字になるようやりくりができている方は、計画的に支出をコントロールする生活に慣れているため、定年後も赤字を出すことは滅多にありません。
しかし、派手に散財をしても生活の基盤が揺るぎにくい収入のある方は、出費を抑える必要性を感じにくい傾向にあります。そのため、定年になっても現役時代のような金銭感覚が抜けず、外食や旅行、高価な日用品、嗜好品への支出を貯金が底をつくまで続けてしまうケースがあるのです。
年金という収入源を考えると余裕があるように見えますが、老後は予期しない病気・ケガや冠婚葬祭といった急な出費が発生することが増えます。そのため、後先を考えずに贅沢を繰り返すと、あっという間に老後資金がなくなってしまうでしょう。
中には、子育てが一段落ついたときに「自由に使えるお金が増えた!」と感じて、定年間際に支出を増やしてしまう世帯もあります。
一度上げてしまった生活水準を下げるには、お金を使わない覚悟と出費の徹底的な見直しが欠かせません。定年後に収入が激減して生活費が賄えなくなる可能性を想定し、支出を抑えた生活をしてみることをおすすめします。
子供が独立した後も生活水準は変えない暮らしに慣れておくことで、老後の少ない収入でもゆとりのある生活を実現できます。
老後破産を避けるためには、貯金・貯蓄の量を増やすことだけではなく、「支出をコントロールすること」も非常に重要なのです。
「ねんきん定期便」で公的年金の受給額を確認しよう
定年後に生活を支える収入源となるのは「年金」です。
まずはどれくらい年金がもらえるのかを把握しておきましょう。
老後の年金受給額をどのように確認するか説明する前に、年金の基本をおさらいします。
公的年金には国民年金と厚生年金があり、定年後には国民年金から「老齢基礎年金」が支給され、厚生年金からは「老齢厚生年金」が支給されます。
老齢基礎年金は受給の条件を満たしているすべての方に給付され、老齢厚生年金は、厚生年金に加入している会社勤めの方に支給されます。
現役時代に給料から天引きされる年金保険料には、国民年金と厚生年金の両方が含まれるのです。
公的年金をいつから、どれくらいの額もらえるのかについては、自分の誕生月にハガキで届く「ねんきん定期便」に記載があります。
年金の加入年数によって年金支給額も異なるため、ねんきん定期便が届かない、年金記録に記載のない職歴がある場合には早めに窓口へ相談しましょう。記録に漏れがあると、受給額が減ってしまう可能性があります。
また、保険料の免除・猶予制度を利用している場合は10年間さかのぼって追納ができます。余裕がある方は少しずつ追納して、将来の受給額を上げておくことが大切です。
50歳未満の場合、年金額は確定ではなく予定額で記載されていますが、資金計画の参考になるでしょう。
50歳以降に届くねんきん定期便には、実績に応じた老齢基礎年金・老齢厚生年金の金額が記載され、実際の支給額に近い金額を知ることができます。
FIREのための資金は5,000万円で足りる?
仕事をまっとうして老後の生活を楽しみたいと考えている方もいますが、2010年頃からミレニアル世代を中心に「FIRE」という生活モデルが注目されはじめました。
FIREはFinancial Independence, Retire Earlyの略称で、「経済的自立と早期リタイア」を指す造語です。
若いうちからゆとりのある生活・仕事に追われない生活を実現するため、40~50代までに多額の貯蓄をして、それらの運用益で経済的自立を図ります。
老後には「最低でも5,000万円は必要」という意見がありますが、FIREを実現するにはどれくらいの貯金・貯蓄があればよいのでしょうか。
FIREに必要な資金
FIREは生活費から逆算した達成条件が示されています。
「最低でも5,000万円は必要」という曖昧な感覚ではなく、自分の生活費から逆算した金額を貯蓄しなければなりません。
FIREといえば「生活費25年分を貯蓄すると、年利4%の運用で生活を賄える」という説明がされることもありますが、この説明は本来の意味とは少し異なります。
4%ルールは米国テキサス州のトリニティ大学の研究をもとにしていることから「トリニティスタディ」とも呼ばれており、「投資の運用益だけで生きていくには取り崩し率を何%に抑えればいいのか?」という疑問への答えとして提唱されました。
つまり、「年間支出の25倍の資産を築いて、4%の運用益にする」のではなく、「運用に回す資産の取り崩し率(=生活費)を4%以内にすれば、25年以上過ごせる可能性が高い」という目安です。
FIREとは、積極的な貯蓄を行って支出を資産の4%以内に収めることで経済的自立を果たし、お金に縛られない生き方を実現する手段といえます。
ただし、FIREムーブメントには懐疑的な見方もあります。
たとえば、生活費の25年分を貯蓄して、年利4%の運用で生活する説で考えると、現実的に実質利回り4%で必ずしも運用益が得られるとは限らないからです。
早期リタイアをするためには、十分に考えて検討し、家族がある場合は家族とよく相談したうえで、実行することが大事だといえます。
5,000万円を貯める方法
5,000万円程の貯蓄があれば、ゆとりある老後を過ごせる可能性があります。
途方もない金額に思えますが、工夫を凝らして計画的にコツコツと貯める習慣が身につけば、決して達成不可能な額ではありません。
期限を決めよう
貯金・貯蓄を始めるにあたって重要なのは、いつまでにいくら貯めるのか決めておくことです。
たとえば、30年かけて5,000万円を貯めるのであれば、1年あたり166万円程の貯蓄が必要であり、1か月およそ13万8,000円を貯め続ける必要があります。
このように、期限とゴールを決めることで、どれくらい支出を抑え、いくら貯金に回せばいいのか明確になります。
もし子供がいて教育資金が必要であれば、教育方針に沿った資金計画が重要になります。
子育て世代の場合、教育にお金がかかる期間に赤字の月が出るのは当然のことです。支出が増える時期に貯金・貯蓄額が落ちてしまうのは仕方がありません。だからこそ、本格的に教育費が発生する前に多めに貯めておくことで、支出が増えて家計を圧迫する時期をカバーすることが大切なのです。
ゴールを定めるだけではなく、余裕のある時期に多く貯めて、余裕のない時期には切り詰めるといったライフステージに応じた計画を立てましょう。
貯金と貯蓄を両立させよう
「貯金」は現金や預貯金を指しますが、「貯蓄」には投資信託・株式・債券といった資産運用も含まれます。
5,000万円をより現実的に貯めるには、貯金と貯蓄をバランスよく行うことがカギとなります。
たとえば、30年以内に5,000万円分の資産を形成することを想定してみましょう。
現金・預金を30年積み立てる場合は、1か月あたり13万8,000円ずつ貯金する必要がありますが、月々13万円も貯金に回すのは困難です。
5,000万円を貯めるには、貯金だけではなく、利回りの高い貯蓄(資産運用)を組み合わせることが重要です。
仮に、月額3万円を投資(利率3%)に回した場合のシミュレーションをしてみます。
30年間運用すると、元金は1,080万円、運用収益は668万2,107円となり、合計は1,748万2,107円になります。
投資には元本割れを起こしたり利回りがマイナスになったりといったリスクもあります。いつでも3%の複利を期待できるわけではないものの、積み立てるほど利息は大きくなり、現金で貯め続けるよりも少ない金額で5,000万円を達成できる可能性が高まります。
投資信託や株式・債券で資産を増やす方法のほかに、保険で貯蓄をするという方法もあります。
生命保険は、「掛け捨て型」と「貯蓄型」に大きく分けられます。
掛け捨て型の保険料は解約しても戻ってきませんが、貯蓄型は、満期時や解約時に満期金・解約返戻金が支払われる保険です。
貯蓄型のメリットは、貯蓄と同時に保障も備えられるということです。
ライフステージに合わせた貯金・貯蓄を進めよう!
老後の生活資金は公的年金制度に依存する部分もありますが、年金だけで賄うのは限界があります。
2,000万円、3,000万円、5,000万円という数値を目標にする方もいますが、「これだけあれば安心だろう」という漠然とした気持ちで多額の金額を設定するのではなく、ご自身のライフステージに合った貯金・貯蓄を進めましょう。
FPナビでは、お金の専門家であるファイナンシャル・プランナーへ無料で相談できるサービスを提供しています。
ご自宅への訪問相談はもちろん、FP事務所・カフェでも面談ができます。忙しくてなかなか外出ができない方や小さいお子さまがいらっしゃる方でも安心です。
老後を支える資金計画をお考えの方は、FPナビへどうぞお気軽にご相談ください。詳しくはこちらの「老後資金の相談はFPにお任せ!」でご確認いただけます。
※この記事は2023年12月時点の法律・情報に基づき作成しているため、将来、法律・情報・税制等が変更される可能性があります。
出典
「家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)家計のの概要」(総務省統計局)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/2022np/pdf/summary.pdf
「令和5年4月分からの年金額等について」(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2023/202304/0401.html